森林がケニアの気候行動のカギを握る
2023年4月21日
ケニアには、世界で最も美しい景観があり、非常に豊かな動植物が生息しています。
しかし、気候変動という危機は、ケニアの自然遺産と、それに依存して生活する人々の幸福を脅かすリスクをもたらしています。
気候変動対策に大きく舵を切るケニアでは、新たな解決策として森林生態系に着目しています。
過去3年間の天候不順により、ケニアは過去40年間で最悪の干ばつに直面しています。
2023年だけでもすでに600万人が影響を受けており、影響を受けた地域では食料不足が記録的な水準に達しています。
昨年の干ばつによるへの影響は15億ドルと推定されており、この惨状が経済的にも大きな打撃を与えていることは明らかです。
変化を起こす
ケニア当局では対策をとらないことによる人的・環境的コストを強く認識し、気候変動対策の強化に努めています。
2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが発生した中でも、ケニアは気候に関する公約を更新し、コミットメントを高めた最初の国の1つでした。
同国は、「国が決定する貢献(NDC)」を強化し、温室効果ガス排出削減の強化目標と、適応行動のためのより強靭な計画を策定しました。
また、最初のNDCでは、他国の支援を条件としていましたが、現在では、気候変動への取り組みを前進させるため、国内での資金調達に尽力しています。
実行に移す
排出量の多い国に対してより多くの説明責任を求める風潮がある一方で、ケニアは、現在の気候への影響に対し、行動を起こすのは待ったなしであることを認識しています。また、特に自然を利用した生態系の回復を通じて解決策を生み出し、それをスケールアップさせることに責任を持ち続けています。
気候変動という惨事の進行において、私たちにはほとんど選択肢がなく、時間もありません。私たちの論議はデリバリーに焦点を当てなければならず、私たちの対話はコミットメントと実行に焦点を当てる必要があります。COP27でのアフリカ・グループとケニアを代表したケニア大統領ウィリアム・ルト氏によるメッセージ
ケニアの森林生態系は、東アフリカの中でも最も多様性に富んでいます。ケニアは、気候変動対策の優先事項の一環として、この貴重な環境と生物多様性の保全、回復、拡大に力を注いでいます。
これらの目標を成功させるためには、多様なステークホルダーの参加、特に森林資源に依存する女性や若者の意見を国の気候変動対策計画に反映させることが不可欠です。
こうした取り組みは、砂漠化の防止や温室効果ガス排出量の削減など、さまざまなメリットをもたらすと同時に、森林生態系に依存して生活する地域コミュニティの回復力を強化することにもつながります。
こうしたメリットを理解したケニア政府は、2010年の憲法で、国土全体の樹木被覆率10%を達成することを約束し、その実現に向けてリーダーシップを発揮しました。2022年6月、この10%の目標を達成した後、ウフル・ケニヤッタ前大統領は、さらに野心的な国家目標、2050年までに30%の樹木被覆を達成することを大胆にも設定しました。
UNDPと日本は、ケニアの気候変動と開発目標の実現を支援する長年のパートナーとして、この前例のない取り組みに貢献するため、名乗りを上げました。
両者は、ケニアにとって重要な3つの森林生態系(カプタガット森林生態系、カカメガ森林生態系、マガディ湖生態系)の修復・保護活動を強化するため、環境・林業省および現地のパートナーと協力し、活動を行いました。
現地のパートナーは、自生苗木の生産とコミュニティの関与を統合した分散型のアプローチを用いて、森林再生のための介入策を打ち出しています。
また、森林ガバナンスの改善も、このイニシアティブの中心となっています。コミュニティの森林組合は、森林の持続可能性を確保するため、ケニア森林局(KFS)と連携し、森林共同管理計画を策定しました。
今後数年間は、これらの計画のもと、植林地の生存率を確保するため、協会とケニア森林局の双方が中心となって維持管理・モニタリング活動を行う予定です。
最大220ヘクタールの劣化した土地に再植林と修復を行うことで、対象地域の約200万人の人々に恩恵をもたらすことが期待されます。
すべての人に恩恵をもたらす
ケニア西部では、農業の拡大により、カプタガットの森の存続が危ぶまれるようになっています。
この状況を打破するため、住民である農民たちに植樹キャンペーンへの参加を呼びかけました。
ゼカリア・キプラガットは、この取り組みに賛同した最初の農民の一人です。
なぜなら、森林の減少に伴い、地元の河川の流量が減少し、自分の農地が危険にさらされるようになったからです。
このキャンペーンでは、当初から地域コミュニティ、特に障害を持つ人々、女性、若者を巻き込むことが重要なポイントとなっています。
現在では、彼らは木の苗木を育てるために設立された地元の森林組合のメンバーの大半を占めています。
また、これらの地域森林組合は、組合員にとって収入源を多様化する機会にもなっています。組合や組合員自身が運営する苗木販売所では、苗木を販売することで、家庭の基本的な食糧をまかない、学費を支払うことができるのです。
悪循環を断ち切る
グレートリフトバレーの南部では、コミュニティは長い間、乾燥した環境に適応した伝統的なライフスタイルを維持してきました。
しかし、土地利用の変化により、2000年から2018年の間に森林面積は11%から7.3%に減少し、森林地帯と草地の半分以上が失われています。
その後の土壌侵食により、地域コミュニティはますます気象現象にさらされています。
気象現象の一つである干ばつは、その最も大きな影響を受けている牧畜民たちにとって、状況は今や危機的です。
ナロク郡に住むルースとリナ・ブニュアの2人のマサイ族の女性は、最も影響を受けている人々の1人です。
彼女たちは、他のコミュニティのメンバー同様、生計を立て、地域の環境を回復し、将来の世代に良い足跡を残すために、FLaRAK(Forestry and Land Restoration Action for Kenya's NDC)プロジェクトの土地回復活動に参加しています。
また、ナロク郡内の学校20校が、地元主導の植樹運動に参加しています。
全国では、合計で4,800校が苗畑を開設する予定です。今年の長い雨季の間に植えるため、各校は31,000kgの種を受け取っています。
この苗畑では、子どもたちが苗の育て方、手入れの仕方を学ぶことができます。また、学校で学んだことを家庭でも実践することができます。
最後の生き残り
カカメガの森は、ケニアで唯一の熱帯雨林で、かつてアフリカ大陸全体に広がっていたギネオ・コンゴール熱帯雨林の最後の名残りです。
この森には、ケニア国内で他では見られない数百種類の生物が生息していますが、その多くは森林伐採と農業の拡大による生息地の減少により、今後25年で絶滅の危機に瀕しています。
またこれらの行為により、森林は、水源保護や雨の調節、浸食抑制、薬用植物を含む非木材林産物の提供など、不可欠な生態系機能を低下させています。
ケニア政府は、この独自の生態系の保全に地域社会を巻き込みながら、大規模な再植林に積極的に取り組んでいます。
脚注
日本は、気候危機が全人類にとっての脅威であると考え、UNDPと協力し、各国が気候変動対策を加速させるようリードしています。2021年、UNDPはNDCの目標を具体的な行動に移すことを目的とした「気候の約束(Climate Promise)の新フェーズ「プレッジからインパクトへ」を開始しました。日本はこのフェーズの最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合、スペイン、イタリアなどの長年のパートナー、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルなどの新しいパートナーとともに、これらの取り組みを加速させています。