住血吸虫症に対する就学前児童向けの新たな治療選択肢の導入に向けて

2024年7月7日

ウガンダ、ガーナ、ケニア、コートジボワール、セネガル、タンザニアを代表するパネリストが、住血吸虫症に対する小児用の新たな治療選択肢の導入準備における経験と課題を共有。

Photo: GHIT Fund

2024年5月、就学前児童に対する住血吸虫症の新たな治療選択肢の公平かつ持続可能な導入に向け、主要なステークホルダーが東京に一堂に会し、戦略的会議を開催しました。

顧みられない熱帯病のひとつである住血吸虫症は、重大なグローバルヘルスの問題であり、特にアフリカで数百万人が罹患しています。世界保健機関 (WHO)は、78か国で7億7,900万人が住血吸虫症の感染リスクにさらされており、そのうち5,000万人が就学前の子どもたちであると 推定 しています。この病気は健康に影響を与えるだけでなく、社会的、経済的にも深刻な影響を及ぼし、教育や経済生産性を妨げ、貧困の悪循環を永続させています。

就学前児童は、感染リスクの高さにもかかわらず、主に適切な小児用治療薬がないため、これまでほとんど治療を受けることができませんでした。しかし、 European & Developing Countries Clinical Trials Partnership(EDCTP)公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) 、そして メルク の資金援助を受けている国際的な官民パートナーシップである 小児用プラジカンテル・コンソーシアム が開発した、就学前児童向けの新しい治療選択肢が利用できるようになることで、この状況は変わりつつあります。この新しい治療選択肢にアクセスできるようになれば、子どもたちとそのコミュニティの生活を大幅に改善できる可能性があるのです。

2023年12月の欧州医薬品庁による 肯定的な科学的見解 と、2024年5月初旬の WHOの事前承認医薬品リスト への治療選択肢の追加という、最近達成された2つのマイルストーンにより、この治療選択肢は必要としている人々にとって一層身近なものになりました。

「東京コミットメント:小児住血吸虫症の新たな治療選択肢への子どもたちのアクセス確保」と題されたこの戦略的会議は、日本政府、GHIT Fund、国連開発計画(UNDP)の「 新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ (Access and Delivery Partnership:ADP)」が共同運営する、新規医療技術、アクセスと提供のための協働(Uniting Efforts for Innovation, Access and Delivery:Uniting Efforts)によって開催されました。このイベントには、小児用プラジカンテル・コンソーシアム、WHO顧みられない熱帯病対策部、ウガンダ、ガーナ、ケニア、コートジボワール、セネガル、タンザニアの各国代表者など、主要なステークホルダーが集まりました。

日本政府は、世界の公衆衛生の強化と、住血吸虫症などの顧みられない熱帯病の対策を、一貫して長期にわたり支援してきました。

井谷哲也 厚生労働省 大臣官房国際課 国際保健・協力室長による開会の挨拶

Photo: GHIT Fund

会議の開会挨拶で、厚生労働省、大臣官房国際課国際保健・協力室長の井谷哲也氏は、最近の成果を称賛するとともに、次の緊急課題を指摘しました。「現在、私たちは新しい小児治療選択肢を、必要とする患者に公平に提供し、将来にわたって患者が継続的にアクセスできるようにする必要があります」と井谷氏は述べました。

UNDPにてADP事業プログラム・アドバイザーを務めるセシリア・オー氏は、次のように述べています。「UNDPが主導するADPとそのパートナーは、新しい治療選択肢に対する公平なアクセスを実現するという共通の目標に全力で取り組んでいます。私たちは、新しいイノベーションを実現するには、研究開発への投資と同時に、そのイノベーションを導入するための国レベルでの能力構築にも同様に重点を置く必要があると認識しています。このプロセスを早期に開始することで、GHIT FundとADPが培ってきた科学、アクセス、公平性を重視するモデルの有効性を確認することができます。」

戦略的会議では、Uniting Efforts が作成した、ADP プロジェクト等から得られた知見と教訓をまとめた「小児治療選択肢を住血吸虫症の予防と管理に統合する: 公平なアクセスのための基礎」という文書案が配布されました。この文書では、国レベルで医療技術へのアクセスと拡大を成功させるために必要な、重要な政策とプログラム的措置のモデルが提案されています。この文書は多部門にわたる計画と調整を促進することを目的としており、国際的なステークホルダーと技術パートナーが各国の準備を支援するための枠組みを提供しています。

GHIT FundのCEO、 國井修氏は次のように述べています。「GHIT Fund は、小児住血吸虫症の新たな治療選択肢の開発を進めるために、小児用プラジカンテル・コンソーシアムに 対しこれまでに18 億 5千万円を助成しました。私たちの主な役割は資金援助ですが、同時に触媒としての役割も果たしており、主要パートナー間の協力関係を促進することに尽力しています。本日は、成功への道のりにおいて重要な節目となります。治療薬を最も必要としている患者に確実に届けるために、私たちは力を合わせなければなりません。」

戦略的会議では、ステークホルダーが、新しい治療選択肢の導入に向けた準備と公平かつ持続可能なアクセスの確保における協業の重要性について議論しました。その議論では、初期段階と長期的な観点の両方で、新しい小児治療選択肢を導入するためのプログラムを計画・実施するための技術的支援と国内資源の動員の必要性が強調されました。

会議の参加者は、新しい治療選択肢の準備で先頭に立ち、治療選択肢の小規模な試験的導入を実施する予定の各国のパートナーからも様々な見解や気づきを得ることができました。参加者は、各国の文化的背景と課題を認識しながら、最適な提供モデルの特定に向けた研究、実施プロトコル、モニタリングおよび評価の枠組み、アドボカシーおよび社会動員戦略など、さまざまな側面について意見を交換しました。

これには、タンザニア国立医学研究所が主導し、ADPが支援する 小児用プラジカンテル製剤提供・展開準備に向けた医療システム能力強化(STEPPS)プロジェクトや、ウガンダ、ケニア、コートジボワールの各国パートナーと協力している小児用プラジカンテル・コンソーシアムのADOPTプログラムから得られた教訓が含まれています。

国立医学研究所の主任研究科学者、ポール・カジヨバ博士は、タンザニアの歩みについて語り、段階を踏んだ分野横断的アプローチと数多くの課題を克服してきたことを強調しました。タンザニアでは、日常的な公衆衛生サービスを通じた「検査と治療」と、集団投薬の両方を活用する統合型提供モデルが、今年6月から3つの地区で試験的に導入される予定です。

「私たちは大きな進歩を遂げており、さらに前進する準備ができています。しかし、他の国の経験から学ぶためには、特に国家間の知識交換を通じた支援が必要です。今回の会議は、知識を共有することで私たちが得られる利益を示す好例となりました」とカジヨバ博士は述べています。

ウガンダ保健省の保健サービス副長官(ベクター媒介性疾患・顧みられない熱帯病担当)、アルフレッド・ムバンギジ博士は、この取り組みの重要性を改めて強調しました。「ウガンダの就学前児童を治療することで、国民の寄生虫感染を一掃し、2030年までに住血吸虫症を根絶するという世界的目標の達成に向けたウガンダの貢献を加速するでしょう。」

江副聡 外務省 国際協力局 国際保健戦略官による閉会の挨拶。

Photo: GHIT Fund

外務省、国際協力局国際保健戦略官の江副聡氏は、会議の協議内容を振り返り、日本政府が新しい治療選択肢の普及拡大に向けた課題を克服するために不可欠だと考える4つの点を強調しました。「1) 住血吸虫症の治療薬として小児用プラジカンテルを開発するための取り組みを理解すること。2) 小児用プラジカンテルへの公平なアクセスに向けた取り組みを促進し、維持するための共通の目標と計画を共有すること。3) 各国が新しい治療薬へのアクセスに備えるために国家レベルで行っている取り組みを特定すること。4) 主要なステークホルダー間で戦略的な対話を行い、世界的な協力関係を構築すること。」

東京コミットメントは、住血吸虫症がまん延している国の就学前児童が切実に必要としている治療を受けられるようにするための、大きな一歩となるものです。すべてのステークホルダーの継続的な協力と献身的な取り組みにより、住血吸虫症との闘いから取り残される子どもがいない世界の実現に近づくことができます。