世界の一部地域では、気候変動による死亡率ががんと肩を並べかねないことが新たなデータで判明

緊急の気候変動対策を怠れば、すでに脆弱な地域に最大の被害が及び、 人間開発の格差が一気に広がるおそれも

2023年3月20日
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新たなデータでは、気候変動の緩和だけでなく、その影響に適応するための迅速な対策の必要性が判明

UNDP Bangladesh

ニューヨーク – 国連開発計画(UNDP)と気候影響研究所(Climate Impact Lab)が立ち上げたプラットフォームHuman Climate Horizonsによると、協調的な緊急対策を取らない限り、気候変動は人間開発の不平等を激化させ、格差をさらに広げることになります。このプラットフォームは、世界各地の人々と政策決定者の能力向上を目指すもので、気候変動が、死亡率や生計を立てる能力、エネルギーの使用状況を変化させることにより、人間の生活に与えかねない影響を示しています。

例えば、バングラデシュの首都ダッカでは、排出量が極めて多くなった場合には、気候変動による死者が2100年までに、年間10万人当たり132人と、バングラデシュにおける現状の合計がん死亡率の2倍近く、年間の交通事故による死者の10倍に上ることになります。

気候変動が健康に及ぼす影響を国別に比較すると、現状の不平等がさらに広がる未来の姿が見えてきます。累積CO2排出量の大半を占めるG20諸国の3分の1では、気候変動による死亡率の上昇が生じると見られます。しかし、後発開発途上国については、この割合がほぼ4分の3に達するため、今後数十年で不平等が一気に拡大することになります。

アヒム・シュタイナーUNDP総裁は「2022年の時点で、世界各地のコミュニティでは、気候緊急事態が多くの予測を上回るスピードと勢いで迫っている様子が見られると予想されますが、これは私たちの未来に対する脅威であると同時に、今すぐに対処が必要な極めて現実的なリスクでもあります。新たに発足したHuman Climate Horizonsは、気候変動が死亡率や労働、エネルギーの使用状況に及ぼす影響に焦点を絞りながら、政策立案者に非常に重要なデータと分析を提供し、各国が最も必要なところで気候変動対策を取れるよう支援していきます。例えば、このプラットフォームによると、パリ協定のターゲット達成に向けたグローバルな取り組みを強化すれば、2100年に予測される猛暑による死者を80%以上も削減し、数千万人の命を救える可能性があることが分かっています」と語っています。

また、新たなデータは、気候変動が各国国内の不平等も広げることを示しています。例えば、排出量が極めて多くなった場合、コロンビア北部の港町バランキヤでは、2100年までの気温上昇を原因とする死亡率(年間10万人当たり37人)が、コロンビアにおける現在の乳がんによる年間死亡率の5倍に上ると見られています。そうなれば、首都ボゴタと比較した場合でも、気候変動による死亡率の格差はさらに拡大してしまうでしょう。

カリフォルニア大学バークリー校公共政策学教授を務める気候影響研究所のソル・シアン氏は「気候影響研究所では、グローバルデータとビッグデータ解析、詳細な気候モデルを組み合わせ、気候変動のコストと、排出量削減による利益の推計を行っています。そして、確かな研究を基盤としながら、今後の気候変動による影響が、現時点で最も暑く、最も貧しい地域で不当に大きくなり、今ある不平等がさらに拡大することを示しています。幸いなことに、世界が全力で排出量の削減に取り組めば、この方向を変えられる可能性はまだ残っています」と述べています。

新たなデータでは、気候変動を緩和するだけでなく、その影響への適応についても、早急に行動を起こす必要性が示されています。例えば、パキスタンのファイサラバードでは、ある程度の緩和があったとしても、2020年から2039年の気候変動による死亡率は、年平均で10万人当たり36人に上ると見られます。適応への取り組みを大幅に拡大しない限り、ファイサラバードでは今世紀の半ばまでに、気候変動関連の年間死亡率がほぼ倍増し、10万人当たり67人に達するおそれもあります。この死亡率は現在、パキスタンで第3位の死因となっている脳卒中にほぼ匹敵します。

調査会社ロジウム・グループでアソシエイト・ディレクターを務める気候影響研究所のハンナ・ヘス氏は「私たちが地球全体の気候変動の自業自得ともいえる影響に直面する中で、一つの国や州、都市だけで排出量削減に取り組んでも、実質的に何も変わらないのではないかという疑問を持たずにはおれません。このプラットフォームは、こうした取り組みを行うことが、私たち全体の未来を決定づけるうえで直接に果たす役割を示しています」と語りました。

UNDP人間開発報告書室のペドロ・コンセイソン室長は「気候変動が人間開発に及ぼす影響の予測は、私たちが直面しようとしているさらに危険な世界が、人々の暮らしや人間の安全保障にとって、どのような意味合いを持つのかを理解することに役立ちます。しかし、未来が決まっているわけではないことを忘れてはなりません。このように世界各地に照準を絞った詳しい予測を行えば、排出量削減の緊急性の警告から、生じつつある人間開発格差の指摘、そして最終的にはコミュニティや政府、保険会社その他の金融機関による対策の支援に至るまで、人々が必要な決定を下せる能力が高まります」と語っています。

この新たなプラットフォームは、続々と発表される新たな研究結果へのアクセスを可能にし、全世界の温室効果ガス排出量増大による不当な影響を軽減するためのアクションに役立つでしょう。

 

Human Climate Horizonsデータ・知見プラットフォームについて

Human Climate Horizons (HCH) は、人間開発のいくつかの次元に対して気候変動が将来的に及ぼすインパクトに関し、地域別の詳しい情報を提供するデータ・知見プラットフォームです。HCHはオープンアクセスでスケール可能なデジタル公共財であり、最前線で進化を続ける学際的研究結果を取りまとめ、ありうる未来の姿を垣間見る窓の役割を果たします。このプラットフォームは、気候影響研究所とUNDP人間開発報告書室の連携の成果として整備されたものです。

HCHは、地域別の詳しい気温データを通じ、あらゆる人に気候変動の姿を目にする機会を与えます。これによって、多くの都市の住民は、これから異常気象の深刻度がどれだけ上昇しかねないか、そして、それが自分自身と子どもたちの未来にとって、どのような意味を持つのかを調べることができるようになります。ここでの推計は、所得と人口増加に関する専門家の予測、将来の温室効果ガス排出量、および33の気候モデルによるシミュレーションを基にしており、常に最先端の情報が自由に閲覧できるようになっています。厳密な分析も加えられます。また、NatureやQuarterly Journal of Economicsを含む有力な学術誌によっても査読、公表されています。予測データはすべてダウンロードできるため、研究者や政策アナリストもそれぞれの知見を深められるようになります。

全世界で2万4,000の地域を高い解像度でカバーし、2つの異なる政策シナリオと21世紀末までを視野に入れる時間枠を兼ね備えたHCHプラットフォームは、気候変動で生じかねない人的損失に関し、経験則に基づいたデータを提供します。その初回の発表では、気候変動が死亡率や労働、エネルギーの使用状況に及ぼす影響が取り上げられています。モデリングの範囲は近々、気候変動の沿岸コミュニティや食料生産への影響、インフラへの損害などにも拡大される予定です。