クリーン・エネルギーでスリランカの農家の気候レジリエンスを強化
2024年11月15日
スリランカの農村部では、人々は自然に密接に結びついた生活様式で暮らしています。また、人口の半分以上が収入や生活を農業に頼っており、農業は文字通りスリランカ経済の根幹となるものです。
しかし、気候変動は彼らの未来を脅かしています。長年、度重なる干ばつや洪水、異常気象が耕作不良やインフラへの甚大なダメージを及ぼし、農家の経済的損失につながってきました。
2022年には、雨不足やエネルギー価格の高騰、化学肥料の輸入制限などにより農業生産が大きく減少しました。スリランカの主食である水稲の生産は前の年に比べ42%落ち込み、33%の家庭が食料不安に陥りました。
それ以来、食料安全保障は改善したものの、農村コミュニティーはいまだに危機の連鎖に陥っており、多くの小規模な農業生産を持続不可能なものにしています。
脆弱な農家は、基本的なニーズを満たすためだけに、農作物の種や家畜などの生産資本を売らざるをえません。この現状は、彼らの生活を危機に晒し、さらなる気候の影響を受けることになります。地域の経済や雇用に不可欠な中小企業は、エネルギー価格の高騰やインフレ、金融へのアクセス不足に直面しており、投資能力が妨げられています。
この複雑な課題に対処する一つの方法は、気候レジリエンス技術の活用を拡大させることです。気候変動に対するレジリエンスを高めるための技術により、エネルギーへのアクセスを向上させ、農業生産性を向上させる機会を創ります。日本からの資金提供により、UNDPはスリランカの乾燥地帯への近代的なグリーン農業技術の導入を支援しています。
スリランカは幅広い穀物が育つ可能性のある肥沃な熱帯国ですが、小規模農家は長年低い収穫量に悩まされてきました。しかし、組織培養によって試験管内で育てた改良苗の導入は、彼らの生活を一変させました。組織培養苗のおかげで、農家は害虫のつかない作物を予定日に収穫できるようになり、計画を最適化し、利益を増やすことができるようになりました。
過去10年で、クルネガラ地区 (Kurunegala )にあるマワタガマ・ラボでは、人気のある輸出用の品種であるアンブルやカベンディッシュ、アンバンなど、さまざまなバナナ品種の組織培養苗を生産してきました。この施設は、特に北西地域の農家を支援してきた一方で、スリランカ全土からの需要も着実に増えてきています。
しかし、この研究所の拡大は、電気料金が生産コストの少なくとも半分を占めるなど、エネルギーの負担によって制限されています。
「私たちは毎月5000以上の苗の注文を受けていましたが、高いエネルギー料金の影響で750から1000ほどしか生産できていませんでした。」と、ラボのアグリプロモーションオフィサーであるダミフさんが説明します。
この問題に対処するために、UNDPはこのラボへの太陽光発電システムの導入を支援しました。このシステムは送電網に接続されており、研究所のエネルギー需要の50%を賄います。これは研究所の年間のエネルギー出費を減らし、苗生産のコストを25%減少させ、農家に直接利益をもたらしています。
太陽熱が農業生産性を高めることができるもう一つの方法として、太陽熱を利用した害虫の制御があります。UNDPの支援で、初めての太陽熱を利用した防虫システムが、スリランカに導入されました。日本企業によって開発されたこの防虫システムは、日没から日の出まで作動する黄色い点滅ライトを使っており、農家が化学農薬の使用を避けるのに役立っています。
スリランカの北西地域のプッタラム(Puttalam)地区にある2エーカーの土地を耕作する41歳の農家であるマノジュ・ニランカさんは、この新しい設備の導入の効果を以下のように説明します。「このライトのシステムを使い始めてから4ヶ月になりますが、その効果は素晴らしいです。防虫剤を巻く必要が全くなく、私の作物から、たったの一匹も虫を見ていません。」
マノジュさんは、太陽熱を利用した防虫システムによって80米ドルに相当する24,000ルピー近くを毎月節約でき、そのお金は彼の子供たちの教育やヘルスケアに充てることができたと語ります。
収穫後の損失を減らして地元の農産物のマーケティングや取引を加速させるため、UNDPは地元企業やビジネスが、太陽熱を利用した冷蔵庫や太陽光発電システムを導入することにも支援を行っています。
スリランカの北西海岸に位置するノロックチョレイ (Norochcholei)では、農業起業家のシャシカさんとリカズさんが、太陽熱を利用した新しい冷蔵貯蔵庫の一つを運営しています。5,000kgもの野菜を貯蔵することができるここの施設のおかげで、彼らは必ずしも買い手を確保することなく、地元の収穫物を大量に購入することができ、地元の農業コミュニティーは収穫物の収入を確保できるようになりました。シャシカさんは「もし今日、農家がベニバナインゲンを持ってきても、私たちは躊躇することなく全てを一括で買うことができます。なぜなら、私たちは買い手を探しながら農作物を貯蔵しておくことができるからです。以前だったら、もし買い手からの注文がなかったら、仕入れを断らなければなりませんでした。」
太陽光発電を利用したこのシステムのおかげで、シャシカさんとリカズさんは毎月665米ドルに相当する200,000ルピー以上を節約しています。このお金を使って、スーパーフードとも呼ばれるモリンガの国際的需要拡大に伴うモリンガ市場への参画など、冒険的な新規事業に投資することができます。この拡大は、彼らの生計のレジリエンスを高めるのに役立つだけでなく、より多くの仕事を作り出すことで広いコミュニティーに利益をもたらすことにもつながります。また、新たな従業員の大多数が女性であり、コミュニティーのジェンダー平等へポジティブな影響を与えてきました。
酪農家たちも、生産活動を支援するための太陽熱を利用した新たな施設を使用することができるようになりました。遠隔地では、新たに導入された太陽光発電システムが装備された牛乳冷却センターと太陽熱を利用した牛乳缶クーラーにより、牛乳の収集と貯蔵を大幅に改善しています。
これらの冷却システムは、安定しない電気供給が従来の冷蔵方法の利用を妨げている遠隔地で特に役立ちます。このような地域では、道や視界が悪く、防犯上の問題もあり、夜間の移動は危険で、夕方の牛乳収集や牛乳冷却センターへの運送は困難です。牛乳を地域で保管するという解決策によって、酪農家が牛乳を1日に2回収穫することができ、彼らの生産を2倍にし、収入を向上させ、消費者により良い質の牛乳を提供することができます。
これらの新たな適用は、太陽熱が気候からの影響に対して軟弱な農家にレジリエンスを構築できる様々な方法を示しています。今後10年でこのイニシアチブは、最大で100,000人の北西・東地域の男女農家に利益をもたらし、約2,200トンのCO2排出削減が期待されています。
この活動はスリランカの「国が決定する貢献(NDC)」と国家適応計画(2016-2025)に含まれている気候変動計画にも合致しています。この島国であるスリランカは、2030年までに電力の70%を再生可能エネルギーで賄うことを目標にしており、同時に適応策を強化し、持続可能な開発目標の達成に向け取り組んでいます。
2023年、UNDPは、当面の気候変動対策の青写真であるNDC実施計画の策定においてスリランカ政府を支援しました。UNDPは、スリランカ政府や、日本、スウェーデン、緑の気候基金をはじめとするその他の国際パートナーの協力のもと、気候変動の緩和と適応の目標を実現するための支援を続けています。こうした努力は、気候の影響に対するレジリエンスを構築し、地域社会にとって持続可能で安全な未来を確保するためのスリランカの歩みを浮き彫りにしています。
脚注
日本は、気候危機が全人類にとっての脅威であると考え、UNDPと協力し、各国が気候変動対策を加速するよう支援しています。2021年、国連開発計画(UNDP)は、NDCの目標を具体的な行動に移すことを目的とした「気候の約束 (Climate Promise)」の新たなフェーズ「 From Pledge to Impact 」を開始しました。日本はこのフェーズ最大の支援国であり、ドイツ、スウェーデン、欧州連合(EU)、スペイン、イタリアといった長年のパートナーや、英国、ベルギー、アイスランド、ポルトガルといった新たなパートナーとともに、こうした取り組みを加速させています。