開催報告:第10回太平洋・島サミット(PALM10)記念事業・公開イベント「太平洋地域における公正なエネルギー移行を通じたGX推進に向けた島しょ国リーダーによる政策対話」

2024年7月17日
第10回太平洋・島サミット(PALM10)記念事業・公開イベント
Photo: UNDP Tokyo / Ken Katsurayama

2024年7月12日(金)、国連大学において、第10回太平洋・島サミット(PALM10)記念事業公開イベント「太平洋地域における公正なエネルギー移行を通じたグリーントランスフォーメーション(GX)推進に向けた島しょ国リーダーによる政策対話」が開催されました。

イベントには、伊藤信太郎環境大臣をはじめ、バヌアツ及びサモアの政府代表、戸田建設株式会社の今井雅則会長、環境省の行木美弥参事官らが出席し、太平洋島しょ国や日本における様々な課題やエネルギー転換を通じたGXへの取り組みについて意見を交換しました。

冒頭、カンニ・ウィグナラジャ 国連事務次長補UNDP総裁補兼アジア太平洋局長がビデオメッセージで、イベントの開催を祝し、「太平洋地域はさらなる技術革新と資金調達が可能な協力関係を必要としています。」と述べました。その取り組みの好例として、UNDPと日本のパートナーシップにより2023年から実施されている「気候に対して強靱な発展及びネット・ゼロに向けた太平洋地域におけるグリーントランスフォーメーション推進計画(太平洋島しょ国グリーントランスフォーメーション・プロジェクト)」を取り上げ、支援プロジェクトにより、太平洋島しょ国地域の若者により多くの経済機会が創出されると強調し、「すべての国が目指す強靭な繁栄に向けて私たちは共に貢献し続けます。それが太平洋地域の未来につながるのです。」と開会挨拶を締めくくりました。

続いて、公共財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の田村堅太郎氏が基調講演を行い、パリ協定で示された1.5度目標の具体的な道筋を示すロードマップを解説し、実現のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)を起点とする社会経済全体の変化とエネルギーの需要側と供給側の双方の垣根を超えた取り組みなどの重要性を訴えました。

その後のパネルディスカッションでは、各国の気候問題への取り組みや実績が紹介され、それぞれが直面している課題や今後の方針が共有されました。

 

 

サモア政府代表のカラビニ・マウアライバオ氏 は、温室効果ガスの最大排出源が輸送セクターであるサモアにおいて、太平洋島しょ国グリーントランスフォーメーション・プロジェクトにより、電気自動車(EV)76台が導入され、電気ポートや充電ステーションの設置が行われていることを紹介。これにより脱炭素化の促進が期待される一方、新たな課題として、EV普及に対する国民の理解を深めること、充電ステーション運用に関するワークショップの開催や設備の拡充を行い、国の受け入れ態勢を整えることが必要であると言及しました。

バヌアツ政府代表のアントニー・L・ガラエ氏は、バヌアツにおいて遠隔地の離島へのアクセス難、エネルギー転換におけるインフラ整備の不足が技術的な障壁となっていることを指摘しました。また再生可能エネルギーへの莫大な先行投資が困難である点を挙げ、このような負担が長期的なシステムの運用に影響を及ぼすと説明しました。エネルギー転換において、地元の能力開発、アップスキリング、専門家の技術を高めることが必要不可欠だとしました。さらにバヌアツの太平洋島しょ国グリーントランスフォーメーション・プロジェクトの一環として、ピコ水力発電所の例を挙げ、地域社会がマネジメントを担い、コミュニティ主体で地元の関与を高めることが大切であると述べました。

環境省の行木参事官は、日本ではエネルギー安定供給の確保、脱炭素、経済成長の三つの同時実現を目指し、GX議論を加速させてきたとして、国際協力が非常に重要であると強調しました。特にCOP27で日本が立ち上げた「パリ協定6条パートナーシップ」を例に、国際連携の促進、参加国の能力構築支援を通じて「質の高い炭素市場の原則」の普及を目指しているとしました。その一例として、北九州市とパラオのコロール州の都市間連携事業において、リゾートホテルなどが木を選定する際に発生した枝などを燃料としてボイラーを動かす事業計画を紹介し、地域の資源をうまく利用することで持続可能かつ脱炭素に貢献する事業を推進していくと語りました。

戸田建設株式会社の今井会長は、グリーンエネルギー提供への取り組み例として、長崎県の離島で進められている日本初の浮体式洋上ウィンドファームプロジェクトを紹介しました。日本の風のエネルギーのポテンシャルの高さを指摘し、風力発電機の実用化には設備の大型化、大量生産が必要なことから、そのために政府による計画予見性の提示が民間企業の参入を後押しすると述べました。また民間企業の視点から、政府による開発経費の保証システムがないかぎり、企業の参入が難しいことにも触れました。

これらの議論を受け、伊藤信太郎環境大臣は閉会挨拶で「パリ協定の1.5℃目標を実現するためには、各国があらゆる温室効果ガスに対して着実に削減を進めていくことが極めて重要です。日本は、引き続き、大平洋島嶼国とともに学び、ともに取り組み、世界全体の脱炭素化に貢献してまいります 」と意欲を述べました。

イベントの最後に、ハリアジッチ秀子UNDP駐日代表は、「パリ協定の1.5度目標の実現のために、各国が力を合わせ温室効果ガスの排出を減らし、その過程で民間のリーダー、若者、市民、産業界、 IGESのような研究所、そして各国の知見を共有し、課題解決型のマルチラテラリズムと民間からのインパクト投資が今後さらに必要になります。」と訴え、「日本からの時機を得た貴重な支援により、太平洋島しょ国とUNDPが現在実施している太平洋島しょ国グリーントランスフォーメーション・プロジェクトでも、本日の対話で提起された政策提案のフォローアップに貢献していくと述べ、今後の方針を示すとともにイベントを総括しました。