太陽光エネルギーが照らす東ティモールの農村地域の家庭と子供たちの未来
夢を照らして
2024年8月20日
「学校に行くのが楽しいです。一番好きな科目は算数です。」と声を弾ませて話すのはアグリピナ。将来は医者になりたいと夢見ているこの14歳の少女は、東ティモールのマナトゥト県にある僻地、イリマノ村に住んでいます。
しかし、この村には電気が通っておらず、アグリピナの自宅での勉強時間は限られています。日没後に勉強するには父親の懐中電灯を使わないといけないからです。
イリマノ村はマナトゥト県の山岳地帯に位置し、市街地からは遠く離れ、大きな道路も電気もありません。この村には87世帯325人が住んでおり、その内、約50人が学校に通っている児童・生徒です。
そんな中、太平洋島嶼国グリーン・トランスフォーメーション・プロジェクトは、イリマノ村の87世帯を含む1,000世帯を支援しています。日本政府の資金提供を受け国連開発計画(UNDP)が実施しているこのプロジェクトはパプアニューギニア、サモア、東ティモール、バヌアツの4つの太平洋小島嶼国(SIDS)を対象として、再生可能エネルギー技術を導入を通じたエネルギーの脱炭素化を促進し、それぞれの国でのグリーン・トランスフォーメーションの推進を目的としています。
東ティモールが直面する課題の一つは、まさにこのプロジェクトが解決を目指している気候変動の影響です。以前よりも不規則に降るようになった雨は、川の氾濫や地滑りを引き起こし、僻地の村々をさらに孤立化させます。道路を含む地域のインフラは破損し、学校や市場へのアクセスがさらに困難となり、村での生活がより不便になっているのです。特に子供たちは、通常2時間かけて山道を徒歩で登校していますが、雨の影響で通学路の山道はより一層危険な状態となっています。
このようなインフラ状況の悪化は村の子供たちの教育に大きな影響を及ぼしています。アグリピナは現在イリマノ小学校の3年生です。14歳の彼女は通常なら中学1年に在籍しているはずの年齢ですが、東ティモールの農村地域では学校に遅れて入学するのはよくある話です。これは、子供たちが自宅と学校との間の山道を何時間も歩ける体力がつく年齢になるまで、学校に通い始めないことが多いためです。
2024年5月24日、アグリピナの家は太平洋島嶼国グリーン・トランスフォーメーション・プロジェクトを通して太陽光パネルキットを受け取りました。パネルの設置が終わるとすぐ、彼女はノートを持って新しく取り付けられた電球の下に座りました。電気がつくようになった事で、彼女は放課後も勉強したり、兄弟の世話を明るく安全な環境ですることができるようになりました。
彼女の父親のジョアキンは、太陽光パネルが設置される前はどのように夜を過ごしていたのかを語ってくれました。一般的に東ティモールではキャンドルナッツという木の実を日々集め、それをろうそのく代わりに使用していました。収穫が良い日だと、子供たちが勉強するための3〜4個の明かりを作るのに十分なキャンドルナッツを集めることができました。
「子供たちには将来のために学校に通って勉強してほしいです。私たちは資源が限られた小さな村に住んでいますが、子供たちが医者や教師になるという夢を支えることに全力を尽くしています。もしお金があれば、それを優先的に子供たちの学費、衣服、教育支援に使いたいです。」
太陽光パネルが設置された今、ジョアキンの家庭では日没後でも子供たちは勉強に集中することができ、親は伝統的な手織りのバスケットの生産を増やすことで家計収入を増やすことに専念できています。
ジョアキンは「日本とUNDPの支援に非常に感謝しています。このプロジェクトは私たちの子供たちの未来に希望を与えてくれました」と感謝の意を述べました。
この物語は、このプロジェクトの支援を受ける1,000世帯のうちのたった1例にすぎません。電力へのアクセスは、目標に向かって日々夜間に勉強する若者にとって非常に重要です。
気候変動は地球に影響を及ぼし、特に最も弱い立場にある人々の生活にも大きな影響を与えています。
将来を見据えるとき、ジョアキンやアグリピナをはじめとするイリマノ村の人々の物語は、電力へのアクセスが持つ変革の力について考えさせられます。日本政府の支援を受け、UNDPによって実施されているこの太平洋島嶼国グリーントランスフォーメーションプロジェクトは、単に光を提供するだけでなく、東ティモールの若者たちの明るい未来への道を照らしています。気候変動による課題に負けないこれらのコミュニティのレジリエンスと決意が強く感じられました。